昆虫標本
季節はまったくもって昆虫などの季節ではないけれど、ふと本棚から飛び出して来たアトラス・オオカブトの標本に、子供の頃、特に夏になると熱中した昆虫標本づくりを思い出した。
標本は若年齢の頃の稚出なものから、次第に昆虫種の質や量、そして作製技術ともに高度になっていった。けれども、様々なことがらに好奇心をくすぐられて意識も移り、いつしかその熱も冷めて、すっかり忘れ去ってしまっていた。
小学校の夏休みの宿題作品用の標本には、やはり、蝶から甲虫まで入り混じった、まさに「夏の昆虫代表種ミックス」で仕上げたものだ。これに欠かすことのできないカブトムシをはじめ、ノコギリクワガタ、カラスアゲハ、シロスジカミキリなどを欠くことはなかったが、自分としては最も満足した作品は、タマムシをメインに入れたものだろう。
タマムシは、子供の頃でも比較的希少な存在だった。金属質の鮮やかな緑の光沢を持つ上翅は、古の時代に奈良、法隆寺にある玉虫厨子に装飾として張りめぐらされただけのことはある美しさを持つ。この虫は、飛んでいる姿で発見することが多かった。姿を見かけるとカクレンボや缶蹴りの最中でも追いかけた。垣根やブロック塀があっても、ところかまわず乗り越えて、どこまでも追いかけた。
小学校の何年生のときだったろうか、どうした訳でか、あの標本は作品展に出品されたまま、手許に戻って来ることはなかった。
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