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カワトンボの繁殖の謎

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Photo : Nikon D200 / Tokina AT-X M100mm F2.8
(L/ ISO100 1/350" F3.8) (R/ISO100 1/125" F4)
~色つき翅のオスと透明翅のオス~

我が家の近くの身近な小川にも幸いカワトンボ(※注)が生息している。ちょうど今時分がカワトンボの繁殖期にあたり、そっと川沿いの草を分けて歩くと、何匹もの雌雄のトンボを目にすることができる。

さて、このカワトンボの繁殖には、なかなか不思議な生態が潜んでいる。

少し話が長いので、簡単に書くと次のようになる。
・オスには2種の翅の色がある
・その色の違いで繁殖行動に優劣がある
・にもかかわらず繁殖率にあまり差がない

まず、カワトンボの容姿であるが、オスに2つのタイプがあり、上の画像に示したように、オレンジ色のグラディーションが掛かった美しい翅を持つタイプのオス(有色翅タイプ)と、メスと同様に控えめな透明の翅を持つタイプ(透明翅タイプ)のオスが同じ川で同時に見られる。
この色の違いは、単なる個体差や成熟度の違いではなく、それぞれのタイプによって、繁殖行動にもはっきりとした違いが現われるというのである。

次に、カワトンボのメスは、小川の水生植物や流木周りを産卵場所として昼の間活動するが、夜は木の上へ移り、昼夜で移動を繰り返す。オスは産卵場所で交尾の機を伺い、産卵の適地では、なわばりを持つようになる。

そして、このなわばりをもつオスはきまって有色翅タイプであるようで、なわばりを持ったオスは、なわばりの中にやってきたメスと独占的に交尾し、他のオスがなわばり内でメスに近づくのを排除しようとする。
一方、透明翅タイプのほうは、なわばりを持ったオスの近くに潜んで、気づかれないよう交尾するか、木の上にメスを連れ去って交尾する型と、初めから木の上にいて、休息に戻ったメスと交尾する型があるようだ(前者をスニーカー、後者をオポチュニストと呼ぶようである)。

さらに、メスは、精子を貯蔵する器官を持っていて、交尾で受け取った精子を産卵までそこに保管する。ところが、オスは交尾するときに、まず、そのメスがそれ以前に交尾して蓄えた他のオスの精子を掻き出してから、自身の精子を送り込む。

ここまでの話から普通に考えられる推論としては、メスの産卵場所では、なわばりを持った有色翅タイプのオスが待ち構え、他のオスの交尾を排除するとともに、メスが他の場所で交尾していたとしても、産卵直前にメスの腹部から他のオスの精子を排斥して入れ替えてしまうのであるから、結局、産卵直前に交尾した有色翅タイプのオスの精子が受精する確率が相当に高くなり、残される子孫は、有色翅のものばかりになってゆくのではないかということである。

ところが実際の結果としては、無色翅タイプもそれなりに子孫の数がいて、いつまで経っても同じような割合で共存しているというのは、遺伝の確率からみても不思議である。
ただ、この謎は、メスの産卵パターンが、良く調べると一定でなく、なわばりのないところで、オスに知られずに産卵する場合や、なわばり内で多くのメスにまぎれて、なわばりを持つオスとは交尾しないまま、以前に受け取った精子を使って産卵してしまうメスが少なくないことが解ってきたようで、必ずしもなわばりを持ったオスだけが一方的に有利でもないシステムであるらしいようだ(個人的には、有色翅タイプのオスの子は本当に全て有色翅になるのかということが検証済みなのかも知りたい)。

それでも、なお、2種の翅のタイプが生じる成因や意味、それに各翅のタイプにより生殖行動にもはっきりした違いをとらせるシステムなど、興味は尽きない。

(※注)カワトンボの種名について
低地の谷間にある我が家の近隣の小川で見られる「カワトンボ」といえば、少し以前なら、だいたいヒガシカワトンボだろうかというところであった。しかし、もともとカワトンボの分類は諸説乱れていて、ヒガシカワトンボ、ニシカワトンボ、オオカワトンボという3種(他にもヒウラカワトンボなどの分類も存在)が同一種なのか、全部別なのか、はたまた、どれとどれは同じであるとか良く解らないところがあった。

まだまだ、確定的に定まったとは思えないが、2004年12月に分類体系の見直しがあって、今のところは、ヒガシカワトンボとオオカワトンボは、「オオカワトンボ」に種が統合され、ニシカワトンボが、「カワトンボ」に種名変更されている。

種の体系まで含め、まだまだ解明されていない部分の多く残ったトンボである。

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