« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »

八重山を歩く(5) カラスアゲハとカラス

F2007_0512_152642
~青さが引き立つ~

前回、八重山の蝶としながらマダラチョウの話だけで終わってしまったが、もちろんマダラチョウのほかにも様々な蝶がいる、一つ一つよくみるとみな目新しい。そもそも、蝶だけでなく、生き物全般にわたって、普段、本土で見かけている種とまったく同じ種の生き物を捜す方が難しいくらいで、動植物の構成が総入替えとなっている感じである。
とはいっても、まったく違う種ばかりではなく、本土の種の亜種も多い。

山の入口の木陰にオレンジの目立つ花が咲いていた。この花を眺めていると、大きなカラスアゲハがやってきた。それまでの短時間のうちにも、カラスアゲハは各所で見掛けたが、それはやや遠目からであった。

しかし、間近で見ると、どうもいつも見なれたカラスアゲハとは違う。また林道でよく見る、より美しさの増したミヤマカラスアゲハとも違う。本土のカラスアゲハよりやや小ぶりで派手ではない感じだが、後翅には、まるでこの島の珊瑚の海以上に青いコバルトブルーの光を放ち、全体にエメラルドグリーンの星を散りばめたような輝きを持った美しいカラスアゲハである。

この蝶はカラスアゲハの亜種のヤエヤマカラスアゲハで、八重山特産のようである。沖縄本島周辺のカラスアゲハもオキナワカラスアゲハという別の亜種とされるようである。

ところで、少々話がはずれるのだが、同じくカラスでも鳥のほうの烏。もちろん、これがまた同じようで違う。本土と同じようなところに、同じように出没するのではあるが、近くで見ると、どうもやけに小さいことに気づく。

小さめなハシボソガラスかと思ったが、これはオサハシブトガラスという別亜種である。こちらは、蝶のように、エメラルドの光沢がどうのこうのというようなことはなく、大きさが違う程度ではあるが、一見、同じに見えるあたりまえのような鳥であるのに、よく見たら違うのでびっくりした。

八重山では、このように様々な生き物が微妙に違っている。
やはり、小笠原や八重山は、同じ日本でも動植物の相でみると、本土と同一エリアではないのだなあとはっきり感じる。
(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

八重山を歩く(4) 八重山の蝶

F2007_0512_101232
~最も目についたスジグロカバマダラ~

石垣島には、いたるところで蝶が舞っていた。大きめで、かつ、活発に飛んでいる

日本の生物の地理的な分類上において、鹿児島と屋久島の間又は屋久島の南のトカラ海峡とには重要な境界がある。前者を三宅線、後者を渡瀬線と呼び、ここを境に南北では生息する生物の種の構成に大きな差があって、昆虫では主に三宅線を境界とし、他の多くの生物では渡瀬線が適用されることが多い。

爬虫類や両生類などは、移動能力がかなり乏しいので、海という地理的な障害が持つ意味は計り知れないことは言うに及ばないが、飛翔力を持ち、移動能力と繁殖力に優れた昆虫や鳥類の仲間にして、そのような境界が認められるのだからなかなか興味深い。

さて、その三宅線又渡瀬線より南の琉球列島(南西諸島)は、世界的な視野で生物をみたときの地理的分類区としては東洋区と呼ばれ、熱帯系の生物層が顕著であるが、そこに住む蝶もまた、ふだん関東周辺にいたのでは、まず見かけることはない熱帯系の蝶たちで、色彩や姿の優雅さと珍しさを楽しませてくれる。

石垣島に訪れたのは5月初旬で、特に目だったのは、マダラチョウの仲間だった。マダラチョウといえば、いつも出かける林道でも、アサギマダラの姿は見ることができるが、本土でみられるマダラチョウはそれくらいであり、八重山には定着しているものだけでも6種のマダラチョウの仲間がいるようである。

マダラチョウの仲間は、ふわふわと綿のように軽く、とても優雅な翔び方をしていて、見ているこちらをおおらかな気持ちにさせてくれる。翅の形状がすっきりと整ったものであるためか、それほど大型の蝶という印象はないが、実際にはアゲハの仲間と同じくらい大きい種が多く、軽やかに林間を翔んでいる様はよく目立つ。

ところが、マダラチョウの仲間が目立つ上にゆったりのんびりと翔んでいても、鳥などの捕食者に襲われることはあまりない。それは、この蝶の仲間は植物から採り込んだ毒の成分だけを体内に蓄積させていて、食べるとひどくマズイという記憶を鳥たちに植えつけることに成功したからだという。

なるほどと思うかもしれないが、絶対的な正解と、簡単には決めつけない方が無難かもしれない。体内の毒の蓄積までは実証できるが、一方の捕食者の方となると、一個体がそのマズイという記憶を生涯持つことも確実とはいえないが、それ以上に、このような体験から獲得した記憶が、文化のない生物において次世代へ伝えられる仕組みがあるのかないのか不明である。現在のところ、こういった後天的に獲得された事項は遺伝には馴染まないのであるから。

生物の不思議な部分はあまりに多くて、そのほとんどには、推定的な正解しかまだ用意されていない。
(つづく)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

八重山を歩く(3) キシノウエトカゲ

F2007_0512_154030
~日本最大のトカゲ~

さて、石垣島のヤシの群落をより奥へと進んでいくと、ヤエヤマヤシは一層深くなり、それ以外の樹種がほとんど見当たらずに周囲の視界がヤシで埋め尽くされてしまうほどの群落の中枢部とも思えるところに出た。
頭上を見上げると、ヤシの葉のあい間からのぞけるまっ青な空とまっ白い雲がまぶしい。

ガサッという音、今度は、先ほどのイシガキトカゲとは明らかに違う重量感のある音がした。すぐさまそちらを振り向くと、やや大きめのヘビ類程度の頭を持った爬虫類が倒木の隙間に消えていくのが一瞬だが見えた。ほんとうに一瞬であったので、目に映った姿は、頭と胸部までは150cm以上はありそうな立派なヘビのような体格であるのに、それにしては、胴長は40cmくらいと極端に太く短いヘビに見えた。

まあ、絵にしてみれば、いわゆるツチノコというやつになってしまうが、目に映ったのは一瞬のことであったし、また、動きがかなり早かったため、足が見えなかったのであって、常識的にはこれはトカゲなのだろう。しかし、そうだとすれば異常に大きい。一体何者?

なにしろ、ここは動物園や水族館の爬虫類コーナーではなく、まったくの自然環境の中である。そんなに大きいトカゲにはお目に掛かったことはない。再度、姿を確かめようと、一緒に歩いている妻にも声を掛け、その爬虫類が消えていった倒木の隙間のほうを見守った。

しばらくすると、ゴソッと音がして、運よくそいつは再び表に現れて来てくれた。いやはや、びっくりするほど太くて大きいトカゲである。
もちろん、世界中にいるトカゲの仲間には、コモドオオトカゲのような真に巨大なやつもいて、飼育下ならば、そういう大トカゲも何度もみてはいる。

しかし、いくら南西のはずれに位置するとはいえ、石垣島も国内の島には違いない。緑色の細長いトカゲなら、目新しさはあってもさほど驚かなかったと思うが、これにはかなり驚いた。

八重山、宮古の両諸島に固有の種にして、全長40cm超という日本最大のトカゲ。日本にいく種もいるスジトカゲ属の盟主のようなこのキシノウエトカゲは、準絶滅危惧種で天然記念物でもある。イシガキトカゲと色形は似ているし、ほぼ同じところに住むが、とにかくその大きさや重量感が圧倒的に違う(上の画像では残念ながら比較対象物がなく判りずらいかもしれません)。

地元の方に聞いてみたところによれば、かつては家屋周辺にもよく現われ、「オカノウエトカゲ」と呼んで親しまれていたが、近年さっぱり見られなくなってきたので、見られたのは幸運だったということだった。

これほどの存在感。うっすらと図鑑の写真が脳裏にあったくらいで、ノーマークだった。こんな主要種の存在を軽視していたとは、国内の生き物にはかなり自信のあるつもりだったのに、琉球方面にはやや手抜きがあったのだろう。八重山の自然の奥深さに恐れ入った次第である。

(つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (1)

八重山を歩く(2) イシガキトカゲ

F2007_0512_1533262
~ちいさなニホントカゲのなかま~

しっとりとした空気に包まれているヤシの繁る山の中を歩いていく。大きめの蝶も気持ちよさそうにふわふわと舞い、ヤシ群落の中は必ずしも暗い森ではない。

ふと、足元のすぐ近くから小さくカサコソっと、枯れ枝や落ち葉を分けて、明らかに何かが歩く音がするのに気が付いた。

強く興味を持つものに対しては、誰しも五感がよく働くものである。私も普段の視力・聴力自体に自信はないのだが、生き物の動きや気配となるととたんに過敏になる。

いま、音が聴えてきたあたりを注意深く観察すると、地に積もった枯れ葉の一部が時折揺れ、その揺れる位置が少しづつ動いてゆく。どうやら、枯れ葉の下を断続的に歩いて移動していくトカゲのような生き物がそこにいるらしい。

この八重山のヤシ群落に住むトカゲ、はたして、どのような姿を見せてくれるだろうかと期待して、さらに観察を続けた。

そして、しばらくじっとしていると、ようやく枯れ葉の間から頭をひょこっと上げたトカゲの姿を確認できた。

ただ、それは、なにか目新しさを感じるようなトカゲではなく、普段我が家の庭でも見かけるニホントカゲと、色合いもあまり変わらず、違うとすれば、成体にしては少々小さめかなという程度のトカゲだった。

おそらくイシガキトカゲだろう。ニホントカゲを代表とする日本産のスジトカゲ属の仲間のなかでは最も小ぶりな種である。

「成体にしては」といったのは、そのトカゲは、体全体は褐色であり、そこに薄い黒スジがあるという外見であって、スジトカゲ属の仲間に共通した幼体の特徴といえる尾部を中心としたきれいな青色は見られなかったからである。

幼体の青色が残るうちは、このトカゲは小さめなこともあって、「宝石」の称号があるくらい綺麗であり、また、成長しても結構いつまでも青色が残るようであるが、すっかり成熟した親になると地味な色で、まあ、こうした生き物に興味がなければ、この八重山の地で見掛けたとしても、ああ、トカゲか・・・でおしまいなのかもしれない。

ところどころに午後の太陽の木もれ日が落ちるヤシ群落では、相変わらず、ふわふわと時折蝶が舞い、のどかな時が流れていた。そんな中で、しばらくはこのトカゲの仕草を見守った。

八重山を歩く(3)につづく
八重山を歩く(1)にもどる

| | コメント (0) | トラックバック (1)

八重山を歩く(1) ヤエヤマヤシ

F2007_0512_152441
~椰子はどこから来た~

例年どおりなら、既に雨季に入っているはずなのであるが、幸いにして雲一つなく、太陽のまぶしい初夏の石垣島を訪ねた。

椰子の群落へ向かう。群落というよりは、一つの山である。島周回の幹線路を外れると、すぐにそれらしき独特の雰囲気を周辺に漂わせた山が見えてくる。しかし、その、少しの怖れと大きな期待を感じさせる雰囲気を、何と言ったらいいだろうか、そこだけは、いまだ中生代が残されているかのような、ロストワールド的な香りがするのである。

ヤエヤマヤシの群落内を歩いてみた。植生は、いつもの見なれた温帯の落葉樹林とは当然まったく違うものであるし、温暖地の照葉樹林とも違っていて、まるでジャングルである。

ヤエヤマヤシは、この石垣島と西表島に限定分布するヤシで、分類上、一属一種という、この八重山で独自の進化をしてきた希少な種であるという。なんでも、海を隔てながらも比較的近隣にあるフィリピンや台湾に自生するヤシよりも、むしろ、遠く離れたニューギニアのヤシに近縁であるらしい。そうすると、かつて波に揺られて海を渡り、漂着した後に大地に根を下ろした椰子の実は、かのニューギニアの浜辺でこぼれ落ちたそれだったということであろうか。

そういえば、石垣の市街地にある博物館には、南の海の遥か向こうにある、あちらこちらの島々から漂着したという、木をくりぬいて造られた、いつの時代のものとも知れぬ小舟がいくつも展示してあった。

八重山を歩く(2)につづく

| | コメント (0) | トラックバック (1)

« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »