夏のスミレの花
春の野や林床で、可憐な花を咲かせるスミレは、自分としては春の象徴の一つであり、その大きさ、姿勢、色ともに程よく好みであって、最も好きな花の一つでもある。
早春の、まだ草木に色が乏しい時期から、緑の葉と白~薄青~紫系統の花で野歩きの目を楽しませてくれるスミレだが、花が終わり、やがて、周囲の草花も芽を吹き、勢いを増して、新緑の季節ともなれば、いつしかその姿を目にしなくなくなってしまい、また花を咲かせる来春まで意識の奥にしまい込まれてしまう。
では、スミレは、春に花開き、その後は残った葉、茎ともに初夏までのうちにはなくなって、地中に姿を消してしまうスプリングエフェメラルの一種なのかというと、そんなことはない。
青々と繁った草の下で、ひっそりとした時を過ごしているのである。
そして、その時期のスミレは、他の草の緑色に隠れているから気付かないだけで、実は花さえ付けているということは、あまり知られていないのではなかろうか。
そうはいっても、夏の鬱蒼とした雑草の下に、可憐な薄紫のスミレが咲いているところなど見たことはないと思う。花を付けるといっても、あの春のような花を開くわけではないからである。
夏のスミレは花は付けるが、その花は開かない花である。閉鎖花といって、つぼみのような状態のまま、閉鎖された花の中で自家受粉しているのである。つまりスミレは、他の株から新たな遺伝子を取り込むのは春だけにし、夏はひたすら遺伝子はそのまま増殖あるのみという方式を採用しているわけであり、それはそれで効率がよいのかもしれない。
このスミレの閉鎖花を見つけるには、やはり、春のうちにスミレが咲いていた場所を記憶しておいて、他の草が繁ってからその場所をよく捜してみるのが手っ取り早い。
そこには、本当にひっそりと、地味な薄緑色の閉鎖花を付けたスミレが花を付けて人知れず暮らしているはずである。
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