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海鳴り

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~打ち寄せる波涛の轟き~

海鳴りを聴いたことがあるだろうか。
海鳴りというのは、単に海辺で聴こえてくる波の音であるとか、いわゆる潮騒といわれるものとは違う。

5月中旬のある晩、いつものように、窓を開いて外の様子を伺った後に就寝しようという時間であったが、どうもいつもと空気が違うのが気になった。夜の闇全体が重い低音の周波に包まれているような気がするのである。

初めは、航空機がこのような時間帯だというのにやけに大きな音を響かせて飛んでいるものだなあと思ったが、しばしの後、いや、この地の底から止めどなく湧きあがるような轟きは、忘れかけていたが、海の響きだということを思いだした。

我が家から海までは直線で5kmちょっとある。それに、家は台地のど真ん中にあって、途中には小さな標高差とはいえ、音の伝播には十分障害となろう起伏があるから、普通は海の音など聞こえようもない。しかし、この日は、遥か沖にある台風の影響で、海上は荒れているのだろう。そして、上層の空気と低層の空気の温度差が大きいなどによる、なにかしら音が遠方に伝わりやすい条件は整っていたのだと思う。

ともかく、その晩聞こえてきた、得体の知れない唸り声のような海鳴りは、ずいぶん久しぶりに聴いたもののような気がした。

私が育った家は、今の家より少しは海に近かったし、そのまま海岸まで続く平野部にあったが、それでも直線で4km少々はあったから、決して海辺とか港町とかいう環境ではないし、やはり、普段は海の音など聞こえる場所ではない。

私が少年期の夏の夜、当時はエアコンなどなかったから、網戸ごしとか、更に時代を遡ればカヤを吊り、開け放った戸の外から流れ込む僅かばかりではあってもひんやりとしたそよ風に涼を求めたものだった。

そうやって、息を潜めていると、様々な音色が聞こえてきた。鳴く虫の種類で、同じ夏といえども、少しづつ季節が流れていくのも感じられた。

7月末ごろ以降になると、海鳴りがよく聞こえるようになったような気がする。やはり、遥か南の海上の台風の影響などで波が高くなるのだろうか。寝つく前に、母からあれは土用波の音だと聴かされ、土用波とは何だろう。普通の波とは何か違うのだろうかと、巨大なうねりに荒れる海の姿を遠く想像したものだった。

当時の自分自身が多感な少年期だったということもあるだろうが、そればかりでなく、家族で枕を並べて誰かが何々の音が聞こえるといっては、みなで聞こえてくる些細な音にじっと耳を傾け、敏感に季節の流れに思いを馳せるというように、今より、もっと肌身で自然を感じ取ることのできる環境がある時代だったように思う。

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